桃尻夏子の場合

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 ドアを開けるとそこには、オタクの国からこんにちはしたような、見るからにオタクの男と、見るからに真面目な雰囲気のシロネコの宅配便の人が言い争いをしていた。 私がドアを開けたのに驚いたのか、オタクは血走った目を大きく見開くと走って逃げた。 「すみません。助かりました。宅配業者を名乗っていたのですが、何やら怪しかったもので」 私がお礼を言うと、シロネコの宅配便の人は笑顔でサインと料金をお願いしますと答えてくれた。 仕事が忙しくて、無駄な話をしている暇はないらしい。 「あ、はい。サインと代金です」 私がお金を手渡し、お釣りを渡していると、シロネコの宅配屋さんが顔をしかめた。 「ドアを閉めて! さっきの奴が戻ってきた」 「あ、はい!」 私は代金を渡せないまま、再びドアを閉めた。 外で激しく争う音が聞こえて、私が警察に電話をすると、それから少しして静かになった。 シーンとしている。何の物音もしない。 宅配便屋さんがオタクを追い出したのなら、もう大丈夫ですよと言ってくれる筈だ。 「もう大丈夫です」 その声を聞いて私は安心した。 よかった。オタクが宅配便屋さんに勝てる訳ないよね。 私は喜んでドアを開けた。
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