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「火月(かげつ)」
そう言われた少年は赤い血のような目を閉じて唇を尖らせた。
普通の顔立ち―いわゆる平々凡々だが、目は吸い込まれてしまいそうな赤。
「俺はその名前が大嫌いなんだよ…知ってて言ってるだろ、クソジジイ」
クソジジイと言われたにも関わらず、立派な髭を蓄えた老人は笑みを浮かべた。
「そうじゃったの~、か・げ・つ」
シュッと風を切り、パシッと老人はそれを掴んだ。
「忍者はクナイに決まってるわい、サバイバルナイフなんて邪道」
火月―深野唯(ふかのゆい)は舌打ちをすると、クナイを持ち直した。
が、老人―深野宜蔵(ふかのよしくら)は咳払いをした。
「なんだジジイ、話って」
「…高校に行く気はないか?」
唯はそれを聞いて顔をしかめた。
一昨日、唯は中学校を卒業したが、高校に行く気が全くないので受験をしなかった。
「高校なんぞ行ってどうする?それに学歴なくても稼ぎはガッポリなんだぜ」
唯は手を振ると100万円の札束が現れ、ほらなとそれで扇ぎ始めた。
「ま、火月の名は気に入らないけどな」
火月とは深我忍者の若頭に代々受け継がれる名前のようなもので、44代目の唯に受け継がれているが、なんとも縁起のよくない数字である。
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