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「それと申し上げにくいのですが、天上様がこの学園へ男を漁りに来たなんて思う方もいるかもしれません。それに親衛隊なんて言うものもありまして…」
唯は男を漁りとか不純な動機じゃなくて、身を隠すためにやってきたのだ。
「大丈夫ですよ、斑鳩さん。心配ありがとうございます」
「良かった、天上様は強い方ですね」
天上様なんて呼ばれるのが嫌だなと思った唯は首を振った。
「天上様なんてやめてください、唯でいいですよ」
「分かりました、唯様」
唯様の方が呼ばれ慣れているのでしっくりくるようだ。
「斑鳩なんて呼び辛いでしょうから、誉と呼んでください」
「分かりました、誉さん」
誉さんと呼ばれた誉は嬉しそうに笑ったので、唯は不思議な気持ちになった。
「おや、着いたようですね」
誉は先に降りて、唯を降ろした。
「校門から校舎までは車でないと行ける距離ではないですからね」
どれだけ敷地があるのか、敷地内を移動するときは車を使用するらしい。
校舎の玄関に入ったとき誉は、さっとスリッパを用意した。
靴は寮部屋へ持っていくとのこと。
「林場みたい…」
「はや…しば?」
誉を屋敷の従者、林場に重ねてしまった。
唯はすみませんと下を向いて、誉の表情は見えなかった。
何分歩いただろうか、唯が辟易していた頃に案内していた誉の足が止まった。
「理事長、斑鳩です」
誉がノックすると、扉の向こうから入りたまえという低い声が聞こえてきた。
「失礼致します」
誉は扉を開けて唯は驚いた。
(シャンデリアとかいらんだろ。赤い絨毯とか金持ちは分からん)
「ソファーに座りなさい」
そう言ったのは、宜蔵と年が変わらない老人。その隣には、30代前半くらいの長身でいわゆる大人の男がいた。
「では…」
唯は向かいのソファーに座り、誉は紅茶をと理事長室の中のキッチンへと行ってしまった。
「私立櫻李学園高校へようこそ、天上君。それとも深野君と呼んだ方がいいのかな?」
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