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「食べたい物か……」
しばらく考えてみる。そして、出た答えは、
「特にないや」
だった。
「そう?何でもいいのよ?」
「じゃあ……キャビア!」
「よし、じゃあ食べに行きましょ」
「ごめんごめん!冗談だって!」
結局、僕らは昼食を近くの飲食店で食べることにした。
その飲食店に入ると、
「いらっしゃいませ」
僕と同じくらいの歳の男の人が目の前に現れ、そう言ってきた。
「二名様でよろしいですか?」
「ええ。空いてる場所はあるかしら?」
「はい。こちらです。案内致します」
そう言って、男の人はくるりと背を向け、歩き出す。その後ろを、僕と朱里はついていく。
「こちらです」
少し歩き、誰もいない場所に着くと、男の人はそう言ってきた。
僕と朱里はその場所に座る。
「では、少々お待ちください」
軽く一礼し、その場を離れたかと思うと、すぐに戻ってきてお冷やを目の前の机に置いてくれた。
「では、決まりましたら、そこのベルを鳴らしてください。ごゆっくりなさってください」
またも一礼し、その男の人はその場から離れた。
朱里はそれを気にした様子もなく、机の端に置かれていたメニューを取り、広げて僕にも見えるように机に置いた。
「あんたはどれがいい?高い物でもいいわよ」
「いや、さすがに高い物は……」
遠慮がちにそう言うと、朱里は初めて会った時の笑みを久々に出した。
「もしかして、私の財布の中身を心配してるの?」
「いや、そうでもないんだけど……、友達に高い物を奢ってもらうのは、鷲以外慣れてなくて……」
鷲には高い物を奢ってもらう時が多い。まぁ、その代わりに僕も高い物を鷲に奢ってたりするんだけどね。
そんな鷲の名前を出した途端、朱里は何か思い出したような顔をしてきた。
「そう言えば、有理。いつもは一緒にいるのに、今日は神奈と一緒じゃないのね」
「あー、今日はね」
一口、お冷やを飲み、僕は続けた。
「鷲と一緒に行動する日はさ、その前日にメールが来るんだよ。“今日、遊ばないか?”って。昨日は来てないから、今、朱里といるんだよ」
「そんなものなの?」
僕は頷く。
そういや、昨日の夏祭りの準備、鷲の姿を見なかったな。鷲の性格上、ああいったものには積極的に参加するのに……。
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