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午前最後の授業が終わった。
僕はリィンちゃんが作ってくれた弁当を、お馴染みの二人と一緒に食べていた。
「いや~、午前最後の授業が数学だなんて……、ってか、何で数学にアルファベットが出るのよ?」
「さぁ?」
「そもそもアルファベットが入ってる時点で、数学じゃねぇだろ」
「言えてる」
ワイワイと、昼食を食べていると、
「鳥羽有理いる?」
と、教室の入口から僕の名前が呼ばれた。しかも、先ほど聞いた声とそっくり。
騒がしかったクラス中は、入口を見た瞬間、しん、と静かになった。
「?皆、どうし――」
言い掛けながら、入口を見ると……
「あ、いたわね。鳥羽有理」
何も言えなくなってしまった。
蜜谷香寺さんにも劣らない綺麗な人が、そこにいた。名前は確か……
「高梨屋……さん?」
だったはず。
首を傾げながら、そう言うと、高梨屋さんは教室に入ってきて僕の目の前に来た。……こうして見ると、彼女の方が少し僕より背が高い。
「朱里でいいわ。その代わり、私も有理って呼ぶから」
そう言うと、高梨屋さんはふふんと笑った。
「……何の用なの?」
明らかに不機嫌そうな蜜谷香寺さんが、声を低くして問う。
「今朝も言ったけど、あんたに用はないわ」
しかし、その問いはさらりと流されてしまった。
「有理」
「は、はい!」
同世代の女子生徒から名前で呼ばれた事がなかったので、僕はビックリした。
そんな僕の行動がおかしかったのか、高梨屋さんはクスッと笑った。
「別に敬語じゃなくていいわ。同じ学年だしね。それよりも」
高梨屋さんの顔が僕の頬へと近づく。ドキリっとしてしまったが、
(昨日見た事、誰にも話してないわよね?)
そんな言葉で、僕は一瞬にしてハッとなる。
(昨日……?高梨屋さんの手が緑色に光ってた事ですか?)
(だから、敬語じゃなくていいってば。……まぁ、それよ。話してないわよね?)
その問いに、僕は頷いた。
(話したって、誰も信じませんよ)
(それが信じる人だっているのよ)
チラッと高梨屋さんは蜜谷香寺さんを見る。
(ともかく、今日の放課後、屋上に来なさい。昨日、あんたが言いかけた言葉も気になるし)
(?)
そう小さな声で言うと、高梨屋さんは顔を遠ざけた。
「じゃあね」
そして、高梨屋さんは教室を出ていった。
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