夏祭りに綿菓子は必需品だろ? by鷲

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そう、言ってきた。 「これを……?」 有理からそれを受け取りながら、私は聞く。有理は頷いた。 「この浴衣が、朱里に似合いそうだから」 有理の言葉に、私は自分の手にある水色の浴衣を見た。 「これが私に、似合う……?」 有理は再び頷く。 「ほら、早く試着室に行って着てみなって。着方は知ってるでしょ?」 「え、ええ。じゃあ、試着してみるわ」 そう言って、私は空いてる試着室に入って、カーテンを閉めた。 視点変更 朱里が試着室に入って、カーテンが閉められた。それを見て、僕はホッと内心安堵していた。 「良かった。ここに朱里に似合いそうな浴衣があって」 なかったらヤバかったよ……。朱里に似合わない(朱里自身は美少女で、ほとんどの浴衣が似合いそうだけど)浴衣を着せて「似合ってる!」なんて心にもないこと言って、あの期間が二倍になるのは嫌だったしね。 だから、あって良かったと本当に思う。 そんな時だった。 「あら~?もしかして、有理君?」 そんな声が、後ろから聞こえた。 後ろを向くと、そこにはどう見ても十代に見える少女がいた。 「あれ?叶さん?」 その見た目、少女の人の名前を呼ぶと、その人はにこにこしながら僕に近付いてきた。 どう見ても二十代(本人が本気を出せば、十代にも見える)にしか見えないこの女の人は蜜谷香寺叶さん。 こう見えても、一児の母なんだよなぁ。しかも、その一児は僕と同い年だし。 「……本気、出してますね」 「あら、分かる~?」 僕が聞くと、叶さんは頬に手を当て、照れたように「いや~ん」と言った。 「当たり前じゃないですか。たった今見た時、十代にしか見えませんでしたし。それに、今も十代にしか見えません」 本当は三十代なのにね。 「それで、今日はどうしてこのような場所に?」 話題を変えるよう、そう聞くと、 「架名の浴衣を買いに来たの」 叶さんは即答した。 「架名ったら、去年よりもある所が大きくなっちゃって、去年の浴衣が入らなくなっちゃったのよ」 「へぇ。そうなんですか」 架名さん、太ったのかな?いや、太ったとしても、そんなに目立つ程じゃなかったと思うけどなぁ。 「それで、当の本人はどこに?」 「あそこだよ」 叶さんがビッと指を差したのは、さっき朱里が入った試着室の隣の試着室だった。 そこを差した刹那、バッとカーテンが勢いよく開かれ、架名さんが現れた。……浴衣を着て。
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