夏祭りに綿菓子は必需品だろ? by鷲

21/37
前へ
/341ページ
次へ
「お母さん~。これは?私に似合ってる――」 叶さんに言い掛けて、架名さんは僕と目が合った。そして、 「うわあっ!?い、いたの?有理君」 驚きながら開かれたカーテンに顔ごと身体半分を隠し、隠してない顔半分で僕を見ながら、聞いてきた。気のせいか、若干、架名さんの頬が赤く染まっているような……。 「うん。偶然……だね」 「う、うん……。凄い偶然……」 そう言いながら、架名さんは恐る恐るカーテンから隠してた身体半分を出し、試着室から出た。そして、僕の前に来る。 架名さんが着ている浴衣は黄色で、あちこちに花柄があった。それに、普段下ろしている黒い長髪もポニーテールにまとめられていて、なかなか似合ってて、可愛かったりする。 「どう……かな?変なとこ、ない?」 くるりと一回転しながら聞いてくるので、僕は素直に頷いた。 「ないない。凄く似合ってる」 「ホント!?」 目を輝かせながら、架名さんは僕に聞いてきた。僕はもう一度、頷く。 「お母さん。私、これ買う!」 「はいはい。好きにしなさい」 「分かった!」 そう言うと、架名さんは先程までに入っていた試着室に入り、カーテンを閉めた。……かと思うと、カーテンはすぐに開かれ、私服姿の架名さんが試着室から出てきた。 さっき試着してた浴衣を持ったままレジに行き、財布を取り出している。 「……有理君の“似合ってる”の言葉を聞くと、即買いなのよね。あの子」 呆れながら言う叶さんの言葉に、僕は苦笑するしかなかった。 そうしていると、もう一つの試着室のカーテンが開かれた。 その音で、その方向を見ると、これまた綺麗な美少女が立っていた。 その美少女は少し躊躇いながら試着室から一歩出て、僕の方を向いた。顔はやや、朱に染まっていた。 「ど、どうかしら?に、似合ってる?」 「……」 その姿に、僕は呆然としてしまった。……あまりの綺麗さに。 「……な、なんとか言いなさいよ」 「……は」 「……は?」 「は……初めましてと言いたくなる気分だよ。朱里」 「はぁ?」 何言ってんだ、こいつ、みたいな顔された。僕は言葉を付け加えることにした。 「別人みたいに似合ってるんだよ。朱里はもともと美人だから、何着ても似合うけど……、その浴衣は格別に似合うね」 「あ、あら、そう?」 「う、うん」 「……これ、買うわ」 そう言って、朱里は出した足を試着室の中に入れて、カーテンを閉めた。
/341ページ

最初のコメントを投稿しよう!

921人が本棚に入れています
本棚に追加