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「じゃあ、私先に行くね」
朝食を食べ終わり、皿を洗っていた僕にそう言って、由香は家を飛び出した。
「はいはい。僕も後から行くよー」
と言っても、由香の後に行くのは随分と先なんだよね。この皿洗いが終わったら、次に洗濯してゴミを出してと、やる事はまだまだある。
「……。時間がかかりすぎ、かな」
僕は一人愚痴る。
「……出来ない事もないけど、一人くらいお手伝いさんが欲しいなぁ」
だが、父親の承諾もなしに勝手にお手伝いさんを雇うのは、僕の理に反する。それに、父親にそんな事を聞くのは恐れ多くて出来ない。
「……一人黙々とやるしかないか」
そう言いながら、僕は皿洗いを終えた。
洗濯が終わり、僕はゴミ袋二つと鞄を抱えて家を出る。鍵を閉める事も、しっかり忘れない。
「よいせっと」
指定の場所にゴミ袋を置いて、僕は一息ついた。よし、これで朝の家事は終了。後は学校に行くだけだ。
と、学校へ向かおうとした瞬間、
「あら?有理君じゃない」
近所の人に声をかけられた。
その人を見ると、手にはゴミ袋があった。
「おはようございます」
「はい、おはよう。しかし、有理君は偉いねぇ」
「はい?」
その人の言った事が理解出来ずに、僕は首を傾げた。
「だって、高校生でしかも男の子なのに、家事全般を受け持つなんて……、ウチの娘も見習って欲しいものだわ」
「いえ、そんな……」
「これから学校?」
僕は頷く。
「頑張っておいでよ」
「はい!それじゃあ、失礼します」
ペコリと頭を下げ、僕は学校へ向かった。
東雲学園。僕が通う、近くて学力もそこそこの高校である。その学校の中の、2年1組に僕は所属している。
その2年1組の教室の中に入ると、
「さぁ、あんたたち!私のために宿題見せなさい!」
……朝からテンションの高い女子生徒の声が聞こえた。
「見せてくれた人には、先着で一万円あげるわよ!」
ちなみにこの人、どこぞのご令嬢さまです。
「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」
女子生徒が言った言葉に、クラス中がその女子生徒の方へと駆けて行った。
それを横目で見ながら、僕は自席に着く。それと同時に、一人の男子生徒が僕に近づいてきた。
「おっす、有理」
「おはよ、鷲」
彼の名前は神奈鷲(かんなしゅう)。僕のクラスメートにして、ありとあらゆる情報を提供する情報屋にして、僕の親友。
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