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「由来?確か、春のように温かく、始まりの人になって欲しい、とかって言ってたな」
「なるほど」
「でもまぁ、始まりも何もここにいる時点でもう終わってっけど」
「何で?」
ナミのむくれ顔が、いつの間にか真顔に変わっていた。間髪入れずにオレに問い掛けた時の彼女の声色からして、純粋な質問なんだろう。
(『なんで』、か)
オレは右手を自分の目の前に出し、意味もなく開いたり閉じたりした。
「俺はさ、病院なしじゃ何も出来なくて、退院の見込みだってついてない人間なんだよ。終わってる他ないだろ」
試したって、結局は無意味だった。気持ちだけ急いて前に進んでも、身体がついて来れなかった。だからオレは、何も始まれない。もう終わってんだから。
諦めたように目を伏せた時、窓から緩やかな風が流れ込んできた。涼風がふわりとカーテンを揺らしていく。
少しの沈黙の後、彼女の静かな声がオレの耳に聞こえてきた。
「終わってないよ、まだ」
その言葉に目を見開いて視線を上げれば、彼女はどこか煌(キラ)めいた目でオレを見ていた。微かに笑みを讃えて、真っ直ぐに。
「病院なしじゃ何も出来ないなら、病院なしで何でも出来るようになればいい。退院の見込みがないなら、作っちゃえばいいよ」
「っお…前、んなこと簡単に出来るわけねーだろ…!」
バカじゃないのか。あまりにも単純過ぎる彼女の考えに、オレは思わず言葉がつっかえてしまった。
言う程そんなに簡単だったら、苦労しねぇよ。何考えてんだよ。
「諦めなければ大丈夫」
「いや、諦めるとかそー言うんじゃないんだって」
少々苛立ちながらそう言うと、キョトンとした顔で「そうかな?」とナミは首を傾げた。肯定の意味を込めて、オレは頷く。
するとナミは何か考えるように眉間にシワを寄せ、唸(ウナ)りながら腕を組み片手を顎に充てた。
「……うーーん…。―――あっ。そうだ、春人君。近々お祭りがあるんだけど、一緒に行かない?」
暫く考えた後、そこから導き出して彼女の口から出たのは突拍子もない言葉だった。脈絡がなさすぎる。
「祭?」
「そそ、毎年恒例の秋祭り。出店が沢山出て、花火上がって、色んなパフォーマンスがある祭。知ってるでしょ?」
「あぁ、うん」
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