一光り 《毎日が変わる日》

12/15
前へ
/192ページ
次へ
  なんとなく、いつもより気分が軽い気がする。ベッドに居るといつも出て来ていたため息が、今日は何故か出て来なかった。 ―――――― 「―――おっ待ちどー春人君!行っても良いってちゃんと許可貰った……て、ありゃ」 「……」 「うは、寝ちゃってるし」 ヒロナと春人の担当医から色々と注意点を言われ、なんとか無事外出許可を貰って南深瓜が戻って来ると、部屋の主は穏やかな寝息を立てていた。窓は開いたままのくせに、彼は身体に何もかけていない。 仕方ないな、と一息つき、南深瓜は彼のベッドに近寄った。傍にあったタオルケットを広げ、そっと彼にかけてやる。 「すー……、すー……」 「まったくもー。当日風邪とか引いたりしないでよね?」 「…ん……」 寝ているのに返事をしてくれた気がして、可笑しくなった南深瓜は小さく笑った。そして開かれた窓を半分だけ閉めて、ベッドの側の椅子に腰掛ける。 「……」 「…すー……」 無防備な寝顔。入院生活のせいもあってか、高校で見るクラスメートの男子達よりも肌は若干白く感じられる。病気でもないのに、病院に縛り付けられている彼。まるでカゴに入れられた、鳥のようだ。 南深瓜が彼の存在を知ったのは、本当にごく最近だった。発端は彼女のおばである真東ひろな。ある時、突如として彼女から一件のメールが届いたのだ。 友達になってあげて欲しい、という内容のメールを。 「……友達、か。こんな私をお気に召しますかね、春人君は」 散々諭されて了解した時、ヒロナは自分のことのように喜んでいた。彼女は自他ともに認める、いわゆる世話焼きなのである。 そしていざ、当日となって彼の病室を訪ねてみれば。なんと着替え中の“沖崎 春人”と対面してしまった。 その時は状況把握の時間もありしばし固まったが、幸い「きゃー」とか「わっ」などといった、可愛いらしい反応は起こらなかった。 尤(モット)も、条件反射なんてものも、実は以っての外だ。何故ならば。 「うわ、なんだもう4時半過ぎてる」 「………」 「……そろそろ帰んなきゃな。我が弟と被ったらマズイし…」 南深瓜には、二つ年下の弟がいるからだ。 もし、いつも弟よりも帰宅が早い南深瓜が、弟と帰りが被りでもしたら、聞きたがりな弟は、何をしていたのかと聞きにくるだろう。  
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

233人が本棚に入れています
本棚に追加