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なんとなく、いつもより気分が軽い気がする。ベッドに居るといつも出て来ていたため息が、今日は何故か出て来なかった。
――――――
「―――おっ待ちどー春人君!行っても良いってちゃんと許可貰った……て、ありゃ」
「……」
「うは、寝ちゃってるし」
ヒロナと春人の担当医から色々と注意点を言われ、なんとか無事外出許可を貰って南深瓜が戻って来ると、部屋の主は穏やかな寝息を立てていた。窓は開いたままのくせに、彼は身体に何もかけていない。
仕方ないな、と一息つき、南深瓜は彼のベッドに近寄った。傍にあったタオルケットを広げ、そっと彼にかけてやる。
「すー……、すー……」
「まったくもー。当日風邪とか引いたりしないでよね?」
「…ん……」
寝ているのに返事をしてくれた気がして、可笑しくなった南深瓜は小さく笑った。そして開かれた窓を半分だけ閉めて、ベッドの側の椅子に腰掛ける。
「……」
「…すー……」
無防備な寝顔。入院生活のせいもあってか、高校で見るクラスメートの男子達よりも肌は若干白く感じられる。病気でもないのに、病院に縛り付けられている彼。まるでカゴに入れられた、鳥のようだ。
南深瓜が彼の存在を知ったのは、本当にごく最近だった。発端は彼女のおばである真東ひろな。ある時、突如として彼女から一件のメールが届いたのだ。
友達になってあげて欲しい、という内容のメールを。
「……友達、か。こんな私をお気に召しますかね、春人君は」
散々諭されて了解した時、ヒロナは自分のことのように喜んでいた。彼女は自他ともに認める、いわゆる世話焼きなのである。
そしていざ、当日となって彼の病室を訪ねてみれば。なんと着替え中の“沖崎 春人”と対面してしまった。
その時は状況把握の時間もありしばし固まったが、幸い「きゃー」とか「わっ」などといった、可愛いらしい反応は起こらなかった。
尤(モット)も、条件反射なんてものも、実は以っての外だ。何故ならば。
「うわ、なんだもう4時半過ぎてる」
「………」
「……そろそろ帰んなきゃな。我が弟と被ったらマズイし…」
南深瓜には、二つ年下の弟がいるからだ。
もし、いつも弟よりも帰宅が早い南深瓜が、弟と帰りが被りでもしたら、聞きたがりな弟は、何をしていたのかと聞きにくるだろう。
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