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南深瓜がヒロナの案に乗ったことが弟にバレるということは、即(スナワ)ち親にバレるということ。そうなれば、母親なんかはニヤニヤしながら冷やかしてくるのが目に見えているし、加えて迷惑なことに父親はすぐ“やめろ”と言い兼ねない。
それは、避けたい。なんとしても避けたい。ヒロナの為にも、自分の為にも、春人の為にも。
「仕方ない、帰ろ」
言って、立ち上がった南深瓜は椅子を片付けると、出口へ向かった。別に起こすこともないだろうと、ベッドで静かに眠る彼を起こさずに。
「そいじゃ、またね。春人君」
扉を開けて部屋の外に出ると、小さな声で別れを告げて、南深瓜は病室を後にした。
扉を閉められた病室にはまた、いつもの静寂が戻った。
―――――
カーテンを閉める音が聞こえて目を覚ますと、まず視界に入ったのはカーテンを閉める真東さんの背中だった。
目を擦り、寝ぼけ眼で時計を見る。あ、もう6時半過ぎてる。
「起きた?春人君。外暗くなってきたから、窓とカーテン閉めたからね」
「あぁ、うん…」
「珍しく熟睡してたみたいだよ。だからほら、すっきりしてない?」
ここに来る時に一緒に持って来たのだろう食事を並べながら、真東さんはニコニコして言った。確かにいつもよりすっきりしてる。いつぶりだ、こんなの。久々だ。
オレは身体を起こし、そこで初めて、あることに気が付いた。確か、何も掛けずに寝たような気がする。なんでタオルケット被ってんだ?
「真東さん」
「んー?」
「これオレにかけた?」
「へ?」
自分にかかっているタオルケットを摘み上げて、真東さんにヒラヒラと見せる。すると真東さんは、意外にもキョトンとした表情になった。
だがすぐに破顔して、「何言ってるの」と笑む。
「私が来た時には春人君、ちゃんと被ってたよ。
自分でかけて寝たんじゃないの?」
「え、あぁ、うーん…」
「忘れちゃったの?あらまあ」
そしてまたクスクス笑い出す真東さん。
いや、忘れたとかじゃないんだって。絶対掛けずに寝たんだって。
「ん?あれ?そういえばあれは?ナミ帰ったの?」
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