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あの時は情緒不安定だったんだ。毎日に無償に苛々してた。いい加減に入院生活が嫌になって、無理に点滴の針を引っこ抜いて病院から走って逃げ出した。
その時だけは、やった!って喜んだ。不安とか心配とかはなくて、久々の自由に目が眩んで、“弱い”って言われていた言葉が病院に縛り付ける為の嘘だったんだと思った。
「……」
――けど、現実はそう甘くなかった。むしろ、苦いというか、辛(カラ)かった。
病院から200㍍も離れない内に胸が苦しくなって、オレはそれ以上動けなくなった。立ってもいられず、うまく呼吸も出来なくて、マジであの時は死ぬかと思った。
その死にそうだったオレが何故今ここにいるかと言えば、それは我が兄貴のお手柄ってやつだ。
オレが倒れた瞬間、丁度見舞いにやって来た冬弥にぃが見付けて、オレを病院に連れ戻した。
それからは流石に物事の分別がついたお陰で、あんな無謀な脱走はしていない。その予定も今のところない。逃亡し続けられる自信はもうないし、連れ戻されるのがオチだ。
「春人君お待たせ。朝食持って来たよー」
もうそんな時間だったのか。
扉の方を見遣れば、食事の乗ったカートを押して真東さんがまたやって来た。彼女はベッド上の簡易テーブルを慣れた手つきで設置すると、その上に、トレイに乗った食事を置いた。
「はぁ……。なぁもーいい加減入院食飽きたんだけど。アイス食いたい、焼き肉食いたい、つーかまず外食したーい」
「無茶言わないで。作ってくれてる人に失礼でしょ?」
「あんま代わり映えしないモノを毎日毎日毎日毎日…。寿司ー、ラーメンー」
正直、入院食はそんなにマズくはない。強いて言えば、まだ美味い方だ。給食的な感じで。ただ、給食と違ってデザート無いし、野菜やたら多いし、やっぱり飽きる。
「……なんすか」
いつもなら、食事を置いたらすぐに出て行く真東さん。でも、今日は何故か未だにここに留まって、渋々食事を口に運ぶオレを静かに見ていた。
じっと見てくるもんだから、視線に耐え切れなくなったオレは少し不機嫌気味に伺う。
一々見られてたんじゃ、食事も満足に出来たもんじゃない。横から口挟まれたりしたら気分だって悪い。
「あ、うん。あのね、今日ここに姪が遊びに来ることになってるの」
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