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道端にはボロボロの服、いや布を身に纏った老人。異臭がして、鼻をつく臭いに顔をしかめる。
よく見ると、既に生き絶えているようだ。死臭のするその死体に余り目をくれず歩き続ける。
彼にしてやれる事は無いのだ。
あれが現実だ。
同情をしてやっても生き返る訳ではない。
この国は最早手遅れな程、貧富の差が開いてしまっている。
格差の発端は人口の増加に合わせてだ。
そして土地増設を止められると、急速に悪化した。
能力売買が可能になるとその格差はハッキリしたものとなり、新たな能力を手にした金持ちたちは能力の買えない地位の低い者たちを見下すのだった。
表の建物と違いガタのきた家屋ばかりだ。
酷いものは窓にガラスがなく風雨が室内に入り込んでいる。
その家だろうと、人は住んでいる。
しかも家1つに1世帯ではなく10人以上が身を寄せ合い暮らしているのだ。
そうでもしなければ大半の者が路地で風雨にさらされる生活をしいられるからだ。
表では高層ビルに高層マンションと、開発の進んでいるのが歴然としている。
しかし、1歩その裏へ足を踏み入れるとそこには最悪の現実と絶望が渦巻いているのだ。
高貴な者はそこを高層の高見から見下し汚らわしい物と蔑むのだった。
この現実を創ったのは彼等なのに‥‥‥。
志凪は周りの家屋とは違う酒場のような建物の前で立ち止まり、そちらを向く。
「遅刻か‥‥。」
ボソッと一言残しその中へと足を踏み入れる。
『ANIMAL』と描かれた看板。ピンク色に青の縁取り、酒場としているがその実体は‥‥。
志凪が酒場の中に入るとすぐに酒を飲みながら騒いでいる客達が目に入る。
酒場と言ってもカウンターと3つの丸テーブルがあり、後は騒ぐ客とアルコールの香りしかない。
路地裏の酒場だ。それが当たり前なのだ。
しかし他の家屋とは違い、酒場の窓にはガラスがちゃんと張ってあり、壁や天井もしっかりしている。
床が少し軋むのは致し方ない事ではある。
しかし何故酒場だけこのようなしっかりした造りがされているのか。
それにはハッキリとした根拠がある。
簡単に言えば、此処が路地裏の住民達にとっての憩いの場所である事だ。
だがそれは表面上での話。
真実、それは此処がレジスタンス『ANIMAL』の本拠地だからだ。
しっかりと造られたのはそのためだ。
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