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実験体
過去の話になる。
2122年4月30日――
志凪彰、のちのスネークは『ability square』広告・宣伝課に勤めていた。
志凪はこの春晴れて新入社員として入社した。
20才という節目の年に、医療技術の機械化で一躍日本最大の企業となり、今もなお能力売買で日本を先導する『ability square』に入社でき、意気揚々と仕事に打ち込む春爛漫。
ちょうど今日で入社1ヶ月となる。
そんな今日、出勤してすぐに志凪は課長に呼び出された。
何か重大なミスをしてしまったのではと、傷心しながら課長のデスク前に行く。
「な、なんでしょうか。」
「あ~、社長がお呼びだ。何でも新プロジェクトへの協力を頼みたいらしいんだと。」
「ほ、本当ですか!?」
新プロジェクトに何故自分の様な広告課の社員が抜擢されたのか些かの疑問を持ったが、自分が社長に、あの赤地 利長社長に高く評価されていると思い込み気持ちが高ぶって、疑問など頭から消え失せた。
社長室前――
志凪は緊張の面持ちで両開きの扉の上部に取り付けられた社長室と書かれたプレートを眺める。
茶色に塗られた扉には如何にも高級そうなデザインの金色の取っ手が備え付けられる。
志凪は2度深呼吸すると自分を落ち着かせ、取っ手を掴む。
部屋の中は絵に描いた様な社長室が存在した。
部屋の中央には長いテーブルを挟みソファーがある。社長の机はデスクとは違い木を使って作られている。
その全てが高級な上等品だ。
そして社長、赤地 利長はそれを越えた向こうに窓を向いて社長椅子に座っていた。
全面ガラス張りの向かって前方には、素晴らしい都会の景色が広がる。
「失礼します。広告・宣伝課、志凪彰です。」
そう言って社長の高級机の前まで行く。
椅子をクルッと回転させ赤地がこちらを向いた。
「よく来たね。志凪君。」
口の端を吊り上げ、不敵に笑みを浮かべてそう言った。
俺はその言葉に頭を下げる。
「君も知ってるよね。能力売買の事は。」
はい、と相槌をうつ。
「それで、新しく加える技術があるんだが、それについてお願いがあるんだ。」
赤地は立ち上がって、ソファーの方に歩いてゆく。
志凪に向かいのソファーに座るようにすすめて、どっしりとソファーに体を預ける赤地。
それを見て志凪もぎこちなくソファーに座る。
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