能力売買

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能力売買

2125年6月10日。 降り続く雨はその勢いを増しアスファルトの地面を打つ。 志凪 彰(しなぎ あきら)は、雨の中を傘もささずに歩いて行く。 黒く長いコートを着て異様な風貌だがその表情を確認することは出来ない。 深くフードを被っているためだ。 本人も前が見えているかは定かではない。 その上の激しい雨だ。視界は最悪だろう。 しかし志凪はそれに臆する事なく足早に歩き続ける。 建物といえばビルしか建っていない。 この時代を物語るようだ。 文明は進み人々の生活を潤すため、建物は上空を目指し超高層ビルに変化していった。 そうでもしなくては、この日本国では人々の居住空間を確保出来ないのだ。 医療の充実に医療技術の機械化それは全て国の保障に基づき無料で受ける事が出来るようになった。 しかしそれを引き金に日本国の人口は年々増え続け、2125年現在で3億4000万人になり領域の問題が発生した。最初は埋め立てを行い、海に領地を増設させていったが、それをアメリカやヨーロッパ各国から非難された。 詳しくは明らかではないが、経済水域の問題、海洋生物への害があっての事だった。 それからは最初に説明したとおりの事で超高層ビルの建設ラッシュが始まったのだった。 志凪はその超高層ビルの1つの前で足を止めた。 そのビルの大型のディスプレイで流れるニュースが耳に止まったからである。 『2120年に開始された能力売買が新たに視力売買を扱えるようになりました。 昨日9日、『ability square』の赤地 利長(せきじ としなが)会長が記者会見をしました。「我が『ability square』は最先端技術を結集し先月ついに、視力の売買可能を実現いたしました。この技術により視力を失った方を完全に回復出来るでしょう。我が社は調整などを経て来月7月14日からこのサービスを開始いたします。これからも我々『ability square』はお客様のために研究を重ねます。」と述べ、また新たに障害者救済の案を実現しました。続いては総理就任のニュースです‥‥‥‥』 志凪は能力売買のニュースが終わると、またおもむろに歩きだした。 「これが現実とは‥‥」 志凪の言葉は雨の雑音により掻き消される。 路地の谷に入り込むと雨の匂いに混じり悪臭が漂い始める。 「これが‥‥現実、裏の世界か‥‥」 さっきまでのビルの建ち並ぶ大通りとは違い、ゴミが散乱している。
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