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序章:悪意
世界はある日を境にその歩みを止めた……
二〇XX年八月末日。
世界各地でほぼ同時に各国の主要施設、有名企業、果ては一般の家庭まで同じ郵便物が送られた。
中には白い小箱が納められており、一枚の手紙が同封されていた。
《人類の進化の時は来たれり! さあ、宴の始まりを祝おうではないか!》
宛先の無いそれはただ、「山内研究所」とだけ書かれていた。
郵便物のテロを警戒されていた事もあり、そのほとんどは捨てられた。
しかし……送り主にとって、小箱を開けようと、捨てられようと構わないのであった。
小箱に納められているのは小さなカプセルがひとつ。
カプセルは数時間後に自然に溶け、内容物を辺りにばらまく事になるのだった。
その内容物とは『ウィルス』
人々は知らず知らずに感染し、そのごくごく短い潜伏期間を終え、人類の文化的な生活を一変させようとしていた。
これはたったひとりの意思による、《悪意》のプレゼントであった。
世界の日常は終わりの始まりを向かえる。
そして、彼もまた、その悪意に呑み込まれようとしていた。
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