終わりと始まり

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 やがて世界が完全に闇となる。  もう何も聞こえない。  何も感じない。  さっきまで見えていた赤に染まっていく白線も、人々が騒ぎ立てる様子も、自分が突き飛ばして救った少女の姿も、美しい色の髪を持った幼馴染の泣き顔も……  さっきまで聞こえていた人々の叫び声も、ようやく聞こえてきた救急車の音も、幼馴染が僕の名前を呼ぶ声も……  さっきまで感じていた自分の血の流れとともに体温が抜けてゆく感じも、幼馴染が流している涙が僕の頬に当たる感触も……  何もかも感じない。もう終わりなんだ。  あの時の千尋もこんな事を考えいたのかなぁ。  なんて呑気な事を考えるとある思いが僕の中を駆け巡る。 『もう一度あの頃に戻りたい』  このまま安々と死んで行くほど僕は人生を楽しんでいない。千尋もそうだ。  千尋がいた日々、世界が幸せな色に染まっていた頃、このまま大人になって行くことを信じていた頃。  あの時の僕は幸せだったと思う。 ――だからもう一度戻りたい、と願った。
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