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カチリという音がして、表を向けると、桜の枝が巻きつけられた細い秒針がカチカチと動き始めた。
月野はそれを割れ物を扱うように丁寧にテーブルの上に置き、側に置いてあった鞄を手に取り実家に帰る準備を始めることにした。
とは言ってもいつも何を持っていくわけでもない。
財布と、携帯と……いつもこの程度だった。
けれど、パチンという音を立てて部屋の電気を消して玄関へといく月野の手には、先ほどテーブルの上に置かれた目覚まし時計が握られていた。
藍色が深くなった空の下を歩き駅を目指す。街灯の光りがまばらに足元を照らしていく。
月野はふと空を見上げた。
そしてまた、脳裏によぎる人物の姿に口の両端を釣り上げた。
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