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秋の深まりはじめた山際から静かに陽の光が射し込み始める。
…チチチチチ…
小鳥達のさえずりが聴こえる。ひやりと冷たい空気が耳を撫でる。
目を覚ました凜は自分のまわりを見渡し、一瞬戸惑ったが、昨夜のことを思い出し小さく頭を掻いた。
しずしずと立ち上がり、風太が手当てしてくれた足首に目をやる。
そして少し引きずりながら戸の側に行き、勢いよくそれを開けた。
なんと美しい景色だろう…朝露に濡れた草木が、山際から覗き始めた朝日に照らされ、キラキラと光っている。
凜は新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、大きく伸びをした。
すると、どこからともなく馬のひづめの音が聴こえ、だんだんと近づいてきた。よく見てみると、それはあの牙們という男ではないか。
長い髪を後ろでひとつに束ね、颯爽と駆け抜けていく。凜は牙們に自然と見とれてしまっていた。
「どー、どー」
一走りした馬をなだめた牙們はその風貌からは想像できないような優しい笑顔で馬の背を撫でた。
それを見た凜は、なんだかいけないものを見てしまったかのように思えて、瞬時に戸の影にその姿を隠した。
鼓動が速くなる。なんだろう、あの牙們という男…、悪い人ではなさそうだ。
一時経って風太が部屋に来た時に何かあったのか、と聞かれるほど、凜の心は動揺していた。
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