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凜はすぐに里の者たちと打ち解けた。里の者たちも美しく、気立ての良い凜のことが大好きになった。
ある時は子どもたちに、とんぼの捕り方を教わったり。
またある時は源之助に怪我に効く薬草を教わったり。
女たちから飯の炊き方を教わったり…。
生まれた時から何不自由なく、城で暮らしてきた凜にとってはすべてが新鮮だった。
最初は無口だった牙們とも子どもを通じて一段と仲良くなっていった。
恐持てな牙們ではあるが、とても優しい心の持ち主で、みんなから好かれる。
そしてからかわれると顔を真っ赤にして照れるという意外な一面も、凜からすると微笑ましく思えるのだった。
また牙們も、前よりいっそう凜のことを気にかけるようになった。
その美しさはもちろんのこと、子どもたちに向ける笑顔、里の者たちへの変わらない優しさ。
凜のすべてが彼を夢中にしていった。
ある日のこと、ともえの可愛がっている黒い子猫が高い木の上に登ったはいいが、降りられなくなってしまっていた。
ともえはそれを見て泣きじゃくるのである。
凜は見るに見かねて決心し、するすると気を登り始めた。
幼い頃、これよりもっと高い木に登って、おサエに怒られたっけ。
子どもたちがぎゃあぎゃあ騒ぐ中、凜はあっという間に子猫のところへ辿り着いた。
「ほおれ、よしよしこっちにおいで」
凜は子猫を優しくかかえあげ、下にいるともえに笑ながら手を振った。
その時、登る時には感じなかった激痛が凜の足首を襲った。
同時に凜は足をすべらせ、その体はみるみるうちに下へと落下した。
誰もがもうだめだと目をつぶったその時、大きな影が子どもたちの目の前をすっと動いた。
体がふわりと浮き上がるような感覚と共に、ゆっくりと目を開けた凜が見たのは、呆れたように笑う牙們の姿だった。
しっかりと両の腕で凜を抱きかかえてくれている。
「無茶なことをする困った姫様だな」
凜の腕の中でもぞもぞと動く子猫が〝にゃあ〝と鳴くのに続いて、子どもたちの笑い声が響いた。
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