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蝋燭(ろうそく)がたった一つ灯っただけの小さな部屋。障子の破けた穴からは月の明かりが柔らかく射し込んでいる。
ふいに吹き抜けた風が蝋燭の炎をゆらりと揺らす。
その時、美しい女の目がゆっくりと開かれた。
…ここはどこだろう。見たことのない、古くて小さな部屋だ。
ふと横を見ると頬に傷があり、肩幅の広い大柄の男と、歳は九か十ぐらいの幼げな少年が戸に寄り掛かって小さな寝息をたてていた。
女は一瞬身を構えた。そして自分にかけてある狐の毛皮を怪訝そうに眺め、そこから抜け出し恐る恐る男に近づいた。
一体この男は何者なのだろう…。
「もし」
女は優しく肩を叩き、囁くような声で牙們を呼んだ。
牙們は驚いたようにパッと目を開いた。女が不思議そうにこちらを窺っている。
「あぁ、気づいたか」
牙們は低くかすれた声でそう呟いた。
牙們が動いたので風太も目を覚まし、女を見て おっ と声をあげた。
「わたしを助けてくださったのですか?」
女は涼やかな声でそう言った。牙們はゆっくり姿勢を直してうなずいた。
「山の中でぶっ倒れてたからな。」
牙們はぶっきらぼうに一言そう言って恥ずかしそうにうつむいた。
風太は仕方ないなあと呟いて事の成り行きを説明した。
女は神妙な顔つきで風太の話を聞いていた。
風太の話が終わると溜め息をついて自分のことを話しだした。
女の名前は凜(りん)といって小国の姫君だった。
敵に追われ、家臣と共に逃げのびたのだが、追ってきた侍たちに襲われ、みな散り散りになってしまったのだった。
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