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しかし気の強い姫様だ…。
あれほどまでに美しい女を見たのは初めてだった。
そして怒ったときの芯の強い眼差し、物怖じしない気高さ、そのすべてが出逢って間もない牙們の心を奪っていたのだ。
牙們はまた溜め息を一つして、ごろんと仰向けに横になった。
そこへドタドタと大きな足音をたてて彦造たちが入ってきた。
「牙們!帰ってきてたのか!風太は!?風太は無事か!」
牙們は気だるそうに彦造を見上げた。
「ああ、大丈夫だ。」
彦造は安堵の声をあげ、どすんとあぐらをかいた。その時、ボロな襖がピシャリと開き風太が現れた。
風太を見た彦造は即座にげんこつをつくり、風太のこめかみをグリグリと押しながら、おーんおーんと涙をながした。これこそ鬼の目にも涙というやつだ。
彦造とは風太が牙們に拾われてからずっと風太のことを自分の子のように育ててきた男のことだ。
背はさほど大きくはないが腹が出ていて人のよい顔つきをしている。
そうしていると彦造の息子たち、彦造の嫁のおつなも部屋に入ってきて途端ににぎやかになった。
風太は彦造の息子たちにいつもからかわれているが、それもみんなが風太を思ってのこと。
牙們はその光景を優しい眼差しで見守っていた。
風太はその視線に気づき、わざとうざったいとでもいうように彼らから離れ、口を開いた。
「お頭っ!さっきの姫様がすまないと言っておった。それと少しの間よろしくだと!」
牙們は嬉しい気持ちを押さえながら〝そうか…〝とただ一言言っただけだった。
その後皆(特に彦造)にしつこく問いつめられたのは言うまでもない。
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