1年 12月 下章

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「―であるからして、それらが…。」 年老いた教師の声など誰も届いてなんかいない。 本人もそれをわかっているのか、ただ淡々と…口だけ動かしている。 目線は黒板と教科書だけ。 生徒なんか目に入っていない定年退職待ちの教師と、授業を受ける意欲を見せない生徒の『形だけ』の授業が続く。 ―――早く終われっつーの。 クラスの誰かがそう呟いた。その声は老教師の耳にも入る、低い声。 老教師は一瞬ピクッと停止したが、何事も無かったかのように授業を再開する。 そう…これが俺が見ている世界。 単調でつまらない世界。 二人がいないと、こんなにも楽しくないんだ…。 俺はこんな世界で終わりたくない。あの楽しかった数日前を過ごしたい。 空を見つめる。 あの頃と変わらない澄み渡るような青空に悔しさを覚えた。
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