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「あぁん?お年玉ぁ?」
煎餅をボリボリと食べながら、ソファーに横になる咲子(25)
母親の言葉に聞き返し、視線だけを向ける。
「お年玉じゃないわよ……お年頃!咲子も、そろそろ25歳だし、お付き合いしている人を紹介……」
「はいはい、そのうちね。そ、の、う、ち!」
大袈裟にため息を漏らし、また煎餅に手を伸ばす。
「はぁ……大体、なんですかその格好」
咲子は、Tシャツにジャージ、前髪をてっぺんで結わえたスタイル。
「こんなんじゃ、天国のパパも悲しむわ」
今度は、母親がため息を吐き、キッチンへ向かう。
「パパ、ね……」
煎餅を食べる手を止め、咲子は天井を見上げた。
咲子が覚えている“パパ”は、ほとんどない。
唯一覚えているのは、幼稚園生だった小さい頃、友達と遊んでいて、隠れんぼに夢中になり、遠くでいつまでも1人で隠れていた。
だんだん暗くなり、不安になった時、パパが見つけてくれた。
息を切らせて、泣きそうな顔の咲子を見て、安堵のため息を吐いた後、思い切り頬を叩いた。
痛かったけれど、すっごく痛かったけど……パパの怒った顔の中の、泣きそうな瞳に、胸が痛かった。
でも、抱き締めてくれたパパ。
大好きだった、パパ……。
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