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「あ、そうだ、かにぱんあるんだけど、いる?」
そういえば、と、僕は食べ残していたかにぱんの存在を思い出して、鞄から袋ごと潰れたかにぱんを取り出した。
2人は、その哀れなかにぱんの姿に吹き出した。
「っ、なあに、それ。ぺちゃんこになっちゃってるじゃない」
「ごめん、鞄の中でテキストに押しつぶされちゃったみたい」
で、どう?食べる?
僕はその皺のついた袋を乱暴にあけて、中からひとつ、かにぱんを差し出した。
「あたしもうお腹いっぱい。巡は?」
「ん?俺?いいよ、みつの昼飯だろ」
2人共に断られてしまった哀れなかにぱんに少し同情して、僕は左足の方からかぶりついた。
かにぱんは、千切ってちまちま食べるよりもそのまま食べる方が美味しい。
それに、なんだか贅沢してる気分になる。
「うま」
小さく感想を漏らして、そのまま無言で食べ続けた。
2人が他愛の無い話をしているのを、聞いてないようなふりをして、もうひとつのかにぱんに取りかかった。
最後の一口、口を大きく空けて放り込もうとしたら、手元から、もうかにぱんだと言わないとただのパンにしか見えないそれが、消えていた。
何事だと思って、周りを見渡すと、隣に座っていた巡の手に、かにぱんは渡っていた。
「くれるんだろ?さんきゅー」
そう言って、最後の一口は、巡のものになった。
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