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僕には彼の考えていることがよくわからなかった。全くと言って良いほど。
ベッドに沈むときは必ず、すきだよ、あいしてるよ、そう囁かれる。
だけど彼は僕を見ていなかった。僕を見つめていても、彼の視線は僕を素通りして、その奥に誰かを見出していた。
きっとそれは、五月ちゃんなのだろうと思ったのは、いつ頃だっただろうか。
彼は幸福な筈なのだ。
五月ちゃんという彼女がいて、不自由もないし、彼はちゃんと、五月ちゃんに心から愛されている。
そう、愛されているのだ。
今こうやって、僕が語っている内容は僕によっての被害妄想で過剰な表現かもしれないけれど、これだけは言えるのだ。
僕は、彼と分かり合えていない。
いつになったらこの檻から解放されるのか。
僕は、愛したいよ、巡のことを。
でも、だから、愛してほしいんだ。
君の愛が欲しい。
「あっ、講義はじまっちゃう!ごめん、また後で。みっちゃん、急に呼び出したのに来てくれてありがとね」
それじゃあ、彼女はそう言って、綺麗なパステルグリーンのベルトの腕時計に視線を落として、僕にお礼を言った後そそくさと食堂を出て行った。
「あ、俺らも行かなきゃじゃん」
「え」
いくぞ!
彼は僕の少しコンプレックスである華奢な手首を痛いぐらいに掴むと、強引に引っ張りあげて席を立たせた。
彼がそのまま走り出したので、僕は足の速い彼に置いて行かれないようにとっさに右足で地面を蹴り上げた。
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