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暫く驚いたように固まっていたが、いつものような勝ち気な笑みで座り込んだ。 ふと、土方に酌をしていて思い出した。 彼に初めて酌をした日のことを。 あの日の彼は、荒れていた。 真撰組という組織から奉行などという大層な役職になってから、元真撰組隊士たちがことあるごとに名前を間違えるのだ。 『ふく……総督!』 『土方ふく……あっすいません』 そして、元来気の短い土方だ。 『だぁぁあッ!うっせぇんだよ!全員揃って切腹させられてぇのか!?』 あの時は冷や汗を流したものだ。 しかし、次の彼の言葉は冷や汗どころじゃなかった。 『んなに間違えんなら名前で呼べ、名前で!』 『ぇ、じゃあ土方さ――』 『トシだ!』 『…………は?』 トシと呼べ、と彼は言ったのだ。 その呼び方をして良いのは、自分たちの知る限りただ一人しかいない。 真撰組局長・近藤勲。 .
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