序章

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 ああ、夢のようだ。  無くしたはずの大切な宝物が目の前にあるなんて。  あれから何十年か経っている。  でも見間違うはずはない。  白磁のような肌、大きな瞳、長く漆黒の睫毛、少し厚めの唇……なにより左目の下と鎖骨の黒子、あの日のままだ。  戻って来てくれるよね。  離れていた日々を取り戻そう。  隣にいるのは誰だ?  馴れ馴れしく宝物に触るな。  いやらしい顔で笑いかけるな。  ……そうか、そいつが奪ったのか。  そいつのせいで離れ離れになったのか。  なら奪い返してやろう。  そうしたらまたこの腕の中に戻って来てくれるよね?  宝物が戻るなら、なんでもしよう。  悪魔にこの身を捧げてもいい。  あの日のようにすべてを奪ってやる。  あの苦しみを味わえばいい。
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