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記憶の中の私は、いつも病室のベッドの中にいた。
そしてそのベッドの側には、常に一人の少女の存在があり、その少女は優しい笑みを浮かべながら、いつも私の話し相手になってくれていた。
「ねぇ……これからもずっと、私の側に居てくれる?」
ある日、私はふとそんなことを少女に尋ねた。
今朝起きた時、その少女が私の側から消えてしまうような気がして、なんとなく不安だったのだ。
その少女の存在だけが唯一の救いとなっていた私にとって、その存在が無くなってしまうことは死活問題に近い。
すると少女は、そんな私の不安を一掃するかのような穏やかな笑みを浮かべて、優しい口調でこう答えた。
「うん。ずっと側にいるよ。だから、安心して……安心して眠って、ね」
言い終わった瞬間、少女の瞳から涙が溢れた。
どうして泣いているんだろう。私は不思議に思った。
いつの間にか、穏やかな表情は悲痛な表情へと変わっており、涙はまるで滝のようにその大きな瞳から流れ出ていた。
私はその涙を拭おうと手を伸ばす。
と、ここで気付いた。体の自由がまるで利かなくなっていることに。
「………あ」
その瞬間、私は理解した。
少女が私の側から消えるんじゃない。
私が少女の側から消え去ろうとしているのだ。
「ごめんっ……ごめんね。助けてあげられなくて」
動かなくなった私の手を握り、少女は私にそう言った。
それは違う、と私は叫ぶ。
けど吐き出された声は、注意して耳を傾けなければならないほど聞こえづらく、弱々しいものだった。
「ううんっ。ボクの……ボクのせいだよっ。ボクがもっと、注意して看てあげていればっ……こんな、こんなことにはっ」
私の言葉に対し、泣き叫ぶように答える少女。
その少女を、無性に抱きしめてあげたくなった。
抱きしめて、今まで側で支えてくれたことへの感謝の気持ちを伝えたくなった。
けど、今はそれさえも叶わない。
思いとは裏腹に、身体は既に永遠の眠りにつくカウントダウンを開始していた。
残された時間はもう少ない。
限られた時間の中、隣で声を荒げて泣き叫ぶ少女に対して、私は何が出来るだろうか。
そんなこと、尋ねるまでもない。
今の私に出来ることなど、一つしか残されていない。
ならばせめて、それに今までの感謝の気持ちを限界まで詰め込んで、この少女に伝えよう。
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