出会い

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まず最初に言っておくが、俺、後藤総一は超能力やそれに準ずる特別な力など一切持っていない。極めて普通の一般人だ。 そして、一般常識だってわきまえている。なので、ドラッグにだって手を出したことはないし、精神病にだって冒されていない。 それらを知った上で、次に俺が告げる言葉を聞いてほしい。 そして可能であれば、その言葉を信じてほしい。 今、目の前に幽霊がいる。 それも、偉く可愛らしい幽霊だ。 信じられないだろうが、本当なのだ。 試しに頬を触ったり、抓ったりしてみたが、何度やってもはっきりとした感触があった。だからこれは夢ではない。現実だ。 さて、これが現実とわかったところで、俺はどうすればいいのだろうか。 答えは明確だ。 何もしない。それが最良の答えだろう。 そう考え至った俺は、まだ時間に余裕があることを確認すると、再びベッドの中に潜り込んだ。 触らぬ神に祟りなし、とはこのことだ。 ここは大人しく二度寝でもして、今見たことを全て無かったことにしよう。 そうしたら次起きた時「あれは夢だったんだ」と笑って話せるはずだ。 何事にも楽観的な俺はそう考えると、布団の中で目を閉じた。 だが、甘かった。 「あのぉ……ちょっとよろしいでしょうか?」 予想外の展開に、俺は動揺した。 まさか、幽霊の方からこんな馬鹿丁寧な態度で接触してくるとは思ってもいなかったのだ。 この急展開に、俺は自問する。 どうする。これは選択次第で俺の今後の運命を大きく変えることになるかもしれんぞ。 何せ、相手は幽霊だ。 専門的な知識があるわけではないが、そんな俺でもその存在がどれだけ奇異的で――危険なものなのかは重々承知している。 幽霊の中には悪霊と言われるものが存在するらしい。 もし、今現在同じ室内に居るあの幽霊がその類の幽霊であるなら、取り憑かれたり、最悪呪い殺されたりするかもしれないのだ。 だが、もちろんそうと決めつけるには時期尚早過ぎる上確証が足りない。 何より、だ。 「あの…………あ、あのっ……へ、返事をしてください! 無視するのはやめてくださあぁぁいっ」 こんな情けない声を上げる幽霊を悪霊と思える人間が、果たして存在するだろうか。 これが甘い考えだと言うのは承知しているつもりだ。 だが、同じ室内、しかも割と近い距離でこのように泣き叫ばれては同情心も湧いてくるのが人というものだろう。
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