球技祭の憂鬱

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次の試合まで2時間ほど時間があるので僕はクラスの輪からさらにはずれて校内に入ると屋上へ向かった。 踊り場から見える空は先程までよりも少し低く感じる。 いつも通り屋上へのドアを守っているつもりの鍵を開けていると突然、後ろから声が聞こえた。 その声は間違いなく2番打者にではなく、僕にかけられたものだ。 ここには僕しかいないのだから。 「ホームラン打つなん、て凄いね」 クラスメイトの舞野エリだ。 「雄梧君、何してるの?」 と舞野は言った。 舞野とはいつだったか彼女が駐輪場でドミノ倒しさせていた自転車を直すのを手伝ってから時々話す。 僕が学校で話をするのはヤスと舞野くらいしかいない。 僕は少し考えてからピッキングをやめ、階段を下りた。 「屋上に行きたかったんだけど、やめた」 と僕は言った。 舞野は紺色のジャージを腕まくりせずにしっかりと着用している。 髪は僕より少し長いくらいしかないが、変に幼かったり男っぽくはなく、むしろ女性的でよく似合っていると感じる。 横を通り過ぎるといい匂いがした。 「舞野はなんでこんな所にいるの?」 「ん、雄梧君が校舎に向かうのが見えたから、来てみた」 舞野はいつも少し苦しそうに話す。 僕は軽く頷いて、手だけで教室を指差した。 舞野は一瞬意味がわからない、という様子だったが僕が歩き出すとついてきた。 教室には誰もいなかった。 黒板には球技祭の予定などが書かれている。 僕が1番後ろの自分の席に座ると舞野は窓際、隣の席に座った。
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