球技祭の憂鬱

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少し前までは大学に進もうと思っていた。 現時点では特にやりたい仕事はないが、いつか就きたい職業が見つかった時に大卒でなくては働けない可能性があるからだ。 かといって農業も嫌いではない。 家と田畑があれば充分生活はできるし、 誰にも迷惑をかけず、かけられず一人で生きていくことは僕にとっては魅力的なことでもあった。 それならもう学校にいる意味はない。 田畑はしっかり手入れをしないとあっというまにだめになってしまう。 ここ二日は登校前の時間に早く起きてやってはいるが、限界がある。 …選択肢は大きく分けて二つ、組合せて四つだ。 学校を辞めるか、残るか。 農業を手放すか、残すか。 僕はどうしたいのだろう。 どうするべきなのだろう。 わからない。 僕がいかに仁さんに甘え、考え無しに生きてきたのか思い知らされる。 「何か考えてる」 と舞野は言った。 その通りだ。僕は何か考えている。 「けど、雄梧君は私にそれを話すつもりはないみたい」 と舞野は続けた。 その通りだ。 なぜわかるんだろう。 「そうかも」 と僕は言った。 「ねぇ、何か悩みがあるなら聞くよ。聞くだけしかできないと思うけど」 悩みを聞く?何故だろう。 僕が逆の立場ならそんな事はしない。 面倒に巻き込まれるのはごめんだし、 その前に相手に悩みがあると気付くことさえないだろう。 「聞いてどうする?」 「どうもしない、よ。聞くだけ。けど、もしかしたら何かアドバイスできるかもしれないよ」 舞野はいたって真面目な顔でそう言った。 「私、誰かの悩みを聞かないと夜眠れなくなっちゃうの。だから今日は雄梧君の悩みを聞かせて」 「俺の悩みは子守唄かよ」 「あ、やっぱり悩んでたんだ。じゃあ子守唄、聞かせて」 僕はやれやれ、と思いながら自分が今どういう状況にあるか、また自分の考えを頭の中で短くまとめてから舞野に聞かせた。
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