球技祭の憂鬱

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「思ったより重たいだろう?」 と僕は言った。 すると先程まで真剣な顔で話を聞いていた舞野の表情が緩んだ。 「うん。思ったより、重い」 そう言うと舞野はクスクスと笑い出した。 「ごめん、笑っちゃった。雄梧君でも悩むんだね」 一体何がおかしかったのだろう。 もちろん、僕だって悩む。 むしろ悩んでばかりだ。 舞野は二度深呼吸してから話し始めた。 「それだけ大きな悩みだと、うん、悩むよね。 …けど高校は辞めなく、ていいんじゃない?大学とまでは言わないけど、高校は出ておいた方が、いいと思う」 意外な反応だった。 2年の4月末とはいえ、まだ受験への危機感こそ感じられないが、この高校の生徒のほとんどは大学進学を目指しているし、中には大学を出ていない人間は認めない、といったタイプの人間も何人かは、確かにいるのだ。 舞野は大学までとは言わない、と言った。 それは僕にとっては少し意外だった。 舞野は喋り方だけ見ると苦しそうだが、わりと真面目な生徒で成績もいい方だからだ。 「けど、雄梧君には迷いなんてないように見えてたから、何だか不思議な感じ。 市のチラシとか、インターネットで求人募集出してみるとか、どうかな」僕はそんなに迷いなく生きているように見えるのだろうか。 「それは考えたよ。けどもう自分の事を他人に任せるのは…」 …嫌だ。 「じゃあ無理のない程度に畑の規模を、縮小するとかは考えてみた? 学校を辞めなくても済むギリギリくらいの範囲にするの。他は売っちゃうとか」 考えてなかった。 なぜ思いつかなかったんだろう。 どうかしてる。 今は丸一日かかる広さだが、それを学校前と放課後でやれるくらいにすれば収入の面でも何とかやっていけるだろう。 わざわざ父が広げ、仁さんが引き受けてくれていた広大な範囲全てをやる必要はない。 無意識のうちに極端な四択にこだわってしまっていたようだ。 「悪くない」 と僕は言った。 「というより、かなりいいかも」 と付け加えた。
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