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新聞以外の活字は読まず、音楽も聴かない。
娯楽は一貫して拒絶しているのでわかりやすい。
それから映画も一切観ないらしい。
僕は映画には凝縮された膨大な時間を感じる。
その事については尋ねてみた。
多くの人間が長い時間をかけて作り上げた作品をたった数時間で見れるなんて贅沢だとは思わないか、と。
すると小林はこう言った。
「俺は贅沢がしたいわけじゃない。
その凝縮された時間とやらが俺に合わなかったらその無駄にした数時間はどうすればいい?」
つまり彼にとっては『彼の時間』そのものが、もっとも大切なのだ。
どうすればいい、と言われても僕には何も言えなかった。
しかし、例外がある。
たとえば身だしなみ。
そこまで時間を大切にするなら身だしなみや服なんてなんでもどうでもいいのだろうと思いきや、
小林には独自のこだわりがあるようで、その着こなしと色彩センスには感嘆せざるを得ない。
また、頭のてっぺんから足の爪先まで手入れが行き届いている。
彼のムダ毛なんて見たことはないし、
乱れたはずの髪型はいつの間にか整っている。
しかしそれでもほとんど時間をかけてはいないだろう。
かけたとしても身だしなみに割く時間はおそらく僕の…半分以下だ。
まぁ、ここまでは理解しようと思えばなんとか頭を整理できる。
とにかく小林は時間が大切なのだ。
それはわかった。
しかし小林が最も時間をかける一つの行為がある。
それこそが僕が彼について1ミリも理解できない部分である。
おそらくあと数分で始まるはずだ。
僕はぼんやりとした気分で用意をしている。
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