球技祭の憂鬱

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しかしよくわからない。 なぜ僕はロストの情報をこんなにも持っているのだろう。 確かに僕は各方面のデータバンクに侵入してデータを盗み見てはいたが(コピーもしたが)、 動機がわからない。 正直、誰がロストになろうがどうでもいいし、それが僕自身でも構わない。 初めは興味本位だったと思う。 しかし地下室の一角にある積もるほどのプリントを見ると首を傾げてしまう。 僕はそこまでするほど、ロストには興味がないのだ。 そんなに多くの情報を得ていながら一般に言われている事以上の事は少ししか知らないのだからさほど問題でもないのだが。 狙い通り、野球のボールより一回り大きいソフトボールがレフト側のフェンスを越えた。 とは言っても野球部のグラウンドは他のクラスの試合に使われているので 二つに分けられた第2グラウンドでホームランを打つにはそこを狙うしかなかったのだが。 ライト方向の外野には向こう側の試合の外野手がいるので僕から見ると外野手が5人いるように見える。 もちろん2人は後ろ向きだ。 当たったら危ない。 僕はおお、とかマジかよ、とか何だあいつ、などといった声を聞きながらのんびりとダイヤモンドを一周した。 なぜホームランを打とうなどと考えたのだろう。 クラスの野球部員に1番に指名されてやる気が出たのだろうか? わからない。ただ無性にホームランが打ちたくなった。 何だろう。苛立ちを感じる。 頭とか、心とかではなく、 なんというか全身が苛立っている。 中学の頃はいつも苛々していた。 練習に打ち込んでいる時だけ、その苛立ちを抑える事ができた。 今の気持ちはあの頃の気持ちに似ている気がする。 ベンチに座ったとたん、足から身体を通って頭の方に何かが移動してくるのを感じた。 怒りだ。 何に対して僕は怒りを感じているのだろう。 声をかけてくるクラスメイト? このふざけたグラウンドの使い方? 4年前、姿を消した父? 挨拶もなしに消えた、4年間一緒に暮らしていた居候? わからない。 自分の事がわからないというのは気持ちが悪い。 しかし自分の気持ちの在り方を他人に聞くわけにもいかないし、 それ以前に聞いてくれる相手なんて僕にはいない。 野球部員の2番打者がライト方向にホームランを打った。 ランニングホームランだ。 フライを取りそこねたライトが落ち込んでいる。 全く、馬鹿みたいだ。
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