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「ごめんください」
昼を半時ばかり回った刻、村で一番大きな雑貨屋に客が一人訪れた。
店主は客の顔を見るなり、怪訝な顔をした。
-この村の人間でないな-
この村は四方を山に囲まれている、小さな村だ。
珍しい鉱物があるわけでも、変わった民芸品を作っているわけでもなく、交通の便もそこまで発達していない。
山の向こうの町の住民の中にはこの村の存在すら知らない者もいるだろう。
村の住民は自給自足で賄っていけるていどには豊かでもある。
つまり-この村に旅人や行商が訪れることはまず無いのだ。
「すみません…?」
珍しい客人は店主に声をかけた。
「ああ、すまない。いらっしゃい」
店主は我に帰り、笑顔で答える。
「見慣れない顔だね、旅人さんかい?いらっしゃい」
旅人と思われる客人は、すらりとした背の高い女性だった。茶色がかった長い髪の毛をひとつにくくっている。
この村の住民とはすこし異なった、異国風の顔立ちをしていた。
「はい、実は私達旅をしていて…この村に泊まるところなどはありますか?」
女性は尋ねた。
店主は少し考えて答えた。
「うちの村は滅多に外の人間が来るわけではないからそんな商売をやっているところはないんだ…しかしうちに空き部屋があるから、あまり掃除のしてない部屋でもよければ貸してやることは出来るよ」
「本当ですか!ありがたいです、ありがとうございます!」
今は雪の積もる真冬である。流石に野宿するには厳しい。女性はほっと胸を撫で下ろす。
「実は娘と一緒なんです、大丈夫ですか?」
食事代を出してくれるなら、と店主は答える。
女性は扉の外に声をかけた。
「カレン、このお店にお世話になるのよ、挨拶しなさい」
少しして扉がキィと音をたてて開いた。
そこには10くらいの小さな娘が立っていた。
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