紫の姫君

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ライラと呼ばれた昏きものはゼニガタの頭に手を添え、目をつぶる。 「紫の名において、そなたの歴史の一部を我に差し出したまえ……」 言霊が終わるとライラの手から紫色の光がほのかに光り、ゼニガタを包む。 「ふぅ。完了です。」「お、ありがとさん。これでゼニガタは俺の顔だけ見事に思い出せないってわけだ。これで通算99勝目だったか?」 「はい~そして私達が出会って一年にあと数週間となったんですよ。」 出会いを懐かしむかのようにライラは微笑む。 その微笑みは全てを包み込むような暖かい微笑みで男もつられて微笑んでしまうほどだ。「そうか……ならお祝いしないとな。なんか欲しいものはあるか?」 すっと手を差しのべる「いえ~、今の私にはあなたから沢山の幸せをいただいていますから。」 その差しだされた手を優雅に掴み歩き出す。「でわ、引き上げますか我が姫君。」 「はい~。帰りましょう。旦那様♪」 二人は歩き出す。数歩歩くと二人の姿は紫の煙だけを残して消えていった……― その場に残るは99敗に突入した負け犬が横たわっていただけであった。
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