第一章  新米 紅い鳥

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――アクアのネオヴェネツィア、サンマルコ広場のカフェ・フロリアン 地毛が茶髪の十七歳の男性――紅軌 飛炎――が、緑の引き締まったダークグリーンの服、その上に背中部分に紅い炎が描かれた上着という容姿で席に座り、カフェラテをすする。 今、ネオヴェネツィアは真冬。 あまりの滞る寒さという環境下にて、体がほど良く温まり、芳醇な香りのするカフェラテを飲める快感と、それを飲める場所に居る幸福感につい吐息が漏れそうになる。 日は差しているのだが、やはり寒さがのほうが勝る。 だというのに、そんな寒さの中、仕事の用事でネオヴェネツィアを毎日行き交っている、飛炎の先輩でもあり、師匠である男性――出雲 暁――の姿は、まるで寒さをものともしていない様子。 飛炎からすれば、その姿には頭が下がりざるを得ない。 アクアに来て約一年、暁に鍛えられた上で、サラマンダーに必要な様々な事を学び、半人前――ウィンディーネで言うシングル――の階級につくことが出来た。 それも、一人前のサラマンダーへの第一途の達成で、とても嬉しいことだが…。 それとは別に、暁が飛炎に良く言い聞かせてくれる事がある。 水無 灯里――通り名 遥かなる蒼――という女性のことだ。 その灯里という女性は、かつて暁に、無いように見えてそこにある様なアクアの素敵を沢山見せてもらったという。 その素敵の内容をいろいろ聞き、飛炎にとって『信じられない』と思えるものなど、驚きが沢山あった。 その中で唯一、暁は『あるわけがない』と言っていたが、飛炎は信じられる事があった。 ケット・シーの事だ。 飛炎は、生まれも育ちもアクアの身で、小さい頃にケット・シーに一度だけ会ったことがある。 ケット・シーは、飛炎にこう告げていた。 《君はアクアに選ばれた一人なんだよ》 そして、最後に飛炎をこう呼んだ。 【陽気な不死鳥】 (メリーフェニックス) 聞けばこれが、通り名の類だとわかる。 だが、サラマンダーに通り名があるとは聞いたことが無い。 そして最後の《遥かなる蒼に会いに行ってみて。そこで、君自身の素敵が分かる鍵に気付けるはずだから》という言葉を頼りに、灯里をこのカフェ・フロリアンに誘い、今は待機している飛炎。 暁も来るのだが、動機が『弟子が師匠に秘密など許さん』だ。 その言葉を思い出し、『極度に積極な師匠だな』などとつぶやく飛炎がいるのであった。
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