音の怪・前編

10/11
前へ
/77ページ
次へ
家の留守電に、この古本屋の場所と、迎えに来てほしい事を入れ、親が来るのを待つ事にした。 「ご飯はもう食べたかの?」 「あ、まだ…」 「一緒に食べよう。灯色も」 「僕は良いです」 店の方に座って、本を読みながら灯色が言った。 「読み始めると止まらんのぉ。仕方ない。二人で食べようか」 「はい」 座敷から奥の居間に移動しようとした時、 カツン… あの音が聞こえた。 「嘘…追い掛けてきた…」 カツン… 店に近づいてくる。 カツン…カツン… 灯色が本から顔を上げる。 音が店の入り口まで来た。 来たと分かるのに、其処には何もない。 誰もいない。 「音だけじゃと…?」 老人が七基を庇うように立つ。 カツン… 音が店に入る手前で止まった。 七基は恐る恐る、老人の背後から、入り口の方を見た。 灯色が入り口の前に立っていた。 見えない何かと、敷居を挟んで対峙している。 そして、店の引き戸を閉めようと手を伸ばす。 ゴッ…!! 引き戸が音を起てて変形する。 カツン… 音が店の中に入ってきた。 「五月雨の楔!」 灯色が叫ぶと、店の柱に貼ってあった紙から鎖が現れて、四方から何かを捕えた。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加