音の怪・後編

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七基の携帯が鳴った。 着信は母親からだった。 「お母さん?」 『あ、茉里?ごめんねぇ、遅くなって。今どうしてる?』 「まだ古本屋にいるよ」 『古本屋?家にいないの?』 「お母さんこそ。留守電聞いてないの?」 『まだ帰ってないもの。と言うかね、お母さん、今日は帰れそうに無いのよ』 「そう…なの?」 『そうなのよ。だからって夜遊びしちゃ駄目よ?』 電話の向こうで母を呼ぶ声がする。 『はいはい、今行きます!…ごめんね。それじゃあね。茉里』 そう言って母は電話を切ってしまった。 「お母さん、今日帰って来ないって…」 「そうか。…何なら茉里ちゃんも泊まっていくかの?無事帰れても、家で一人じゃ怖いじゃろう。此処なら灯色もおるし、安心じゃて」 「…良いんですか?」 「勿論じゃよ。独り身じゃけ、孫もおらんで寂しかったとこじゃ」 三坂が笑って言った。 「そうと決まれば、腹が減ったのぉ。三人でご飯を食べよう」 「あ…すっかり忘れてました」 七基が思い出して笑う。 灯色が歪んだままの店の戸を閉め、鍵を掛けた。 三人は今度こそ、居間で食事を取った。
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