そして、始まり…

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「そうじゃろうて。嫌な事、怖い事は、みんな夢だったと思いたい。信じられない不思議な出来事は、特にそう思い込む傾向が強いんじゃよ」 三坂は座敷で寝ている灯色を、愛しそうに見つめた。 「そして、そのうち忘れてしまう。嫌な事や怖い事は全て。それらから救った灯色の思い出ごと…」 「…灯色くんの行いは、報われない事の方が多いんですね」 夢だと思い込む。 本当の事じゃないと、現実じゃないと、信じ込む。 自分の心を守る為に。 その人にとって、灯色は夢の中の登場人物で… 存在しないのだ。 「何だか…悲しい」 「そうじゃな。だからこそ、儂らは覚えておいてやろう」 「はい」 立花灯色は確かに存在し、助けてくれた事を。 「私は忘れないよ」 七基は呟いた。 「ん…」 灯色が目を覚ました。 「あ…七基さん。来てたんですか」 起き上がって、灯色が微笑んだ。 「灯色くん!一緒に遊びに行こう!」 「え?」 灯色が呆ける。 「ほら。早く早く!」 「え、あの…七基さん?」 灯色の手を引き、七基は走り出した。 「青春じゃなぁ」 三坂は快く、二人を送り出した。
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