音の怪・前編

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「あ、やっば!もうこんな時間じゃん!」 友人が腕時計を見て、慌てて言った。 「じゃ、そろそろ帰ろっか」 「ごめんねぇ」 二人は会計を済ませると外に出た。 「うわぁ。降りそうだね」 空を覆った雨雲を見て、七基は呟いた。 「明日は十時に、駅前で待ち合わせね」 「分かった。また明日ね」 そして二人は別れた。 暫く歩いていると、雨が降り始めた。 仕方なく、近くにあった古本屋で雨宿りをすることにした。 其処はよくある漫画の古本屋では無く、何だか閑散とした古い店だった。 「いらっしゃい」 中に入ると、サンタクロースのような真っ白な髭の老人がいた。 「珍しいのぉ。若い娘さんが来るのは。ゆっくりしていってくれろ」 「あ、はい」 陳列してある本を見るが、余り面白そうな本は無かった。 「娘さん」 呼ばれて振り向くと、老人が手招きしていた。 「こっちで、お茶でも飲まんかいのぉ?娘さんには面白くない本ばかりじゃろう」 老人は笑って言った。 「雨に降られたんじゃろ?おいで。取って食わせんよ」 七基は老人の横に座って、お茶を受け取った。 膝の位置で一段高くなっているその奥は、どうやら障子を挟んで、座敷に続いているらしい。
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