音の怪・前編

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「若い人が来るのは珍しいでな。こうやって一緒に茶を飲んだりすると、孫が出来たみたいて嬉しいのぉ」 老人はお茶をすすりながら、嬉しそうに言った。 「お爺さんは此処に、一人で住んでるんですか?」 「住んでるのは一人じゃけど、最近は座敷童が泊まっとるよ」 「え?」 七基が聞き返そうとすると、後ろの障子が開いた。 「おお…。噂をすれば、座敷童が現れよった」 「誰が座敷童ですか」 四、五冊の本を抱えて言ったのは、七基と同じ歳くらいの少年だった。 「もう、読んだのかい?灯色」 灯色と呼ばれた少年は、本を棚に戻して、次に読む本を物色していた。 「灯色。灯色や」 「はい?」 呼ばれて振り向いた彼の瞳は、青みを帯た黒だった。 「お前さん、この子を家まで送ってやっておくれ」 「え、そんな。大丈夫です」 「いかんよ。もう暗いし、雨も止みそうにない。若い娘さんが一人で帰るなんて、危ない事はさせられん」 「僕は良いですよ」 灯色が言った。 「えっと、でも」 「また来てくれろ」 「…うん。ありがとうございます」 老人から傘を借り、灯色に送ってもらい、七基は家に帰った。
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