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「ハァッ、ハァ、ハァ、ハァッ、ハァッ」
漆黒の夜空に綺麗な星が舞う中俺は全力で走っていた。
疲労で手足が痺れ、感覚さえ無くなっている。
それでも―――
「待てーッ!! ハァ、ハァ、止まれッッ!! 香澄 諒(カスミリョウ)ーッ!!」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
休めない。
背後で俺の名を呼びながら追ってくる警察の声と地を蹴る靴の音で奏でる恐怖心が、身体が要求する休息という甘い意志に勝り足を前へ前へと運ばせる。
―――苦しい。
限界はとうにに超えている。脚の感覚が無い。
今、自分がどれ位の速さで走っているのかさえ分からない。
―――休みたい。
視界がぼやける。
酸素をほとんど取り入るないで走りつづけた代償が視覚にも影響を及ぼし始めたらしい。
夜の闇と二重になって視覚に襲い掛かる。
それでも、僅かに残った視力を頼りに活路を探る。
―――休みたい!
「待てーッ!! いい加減止まれーーッ!!」
狂った感覚の中、生存本能の為か聴覚だけは正常以上に機能し、確実に追って、近づいてくる事を理解してしまう。
恐怖心がどんどん膨らんでくる。
もう嫌だ!
こんなの嫌だ!
どうしてこんな事になってしまったのだろう―――この疑問を解消するには今から時を二日ほど遡らなくてはならない。
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