古事記の間。

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さて、しばらくするとホオリの元にトヨタマビメがやってきます。 そして、トヨタマビメはホオリに「わたしはあなたの子を身籠もっていますが、海中で天つ神の御子を産んではならないと思い、あなたの元へやってきました」と告げました。 そして、海辺に鵜の羽をかやのように使い、産屋を建て始めました。 しかし、産屋が完成する前に子供が生まれそうになった為、建設途中の産屋で出産する事を決意します。 この時トヨタマビメは「わたしとあなたは異類の者であるので、絶対に出産を覗かないようにして欲しい」とホオリに約束をさせます。 しかし、ホオリは心配になってしまい、約束を破って産屋の中を覗いてしまいました。 ここでホオリが目にした光景は… なんとトヨタマビメが鰐鮫と化し、のたうち回っている姿でした。 これに面食らったホオリは、その場から逃げ出してしまい、一方のトヨタマビメは、醜い自分の姿を見られた事を恥に思い、生んだばかりの子を置いたまま「わたしは、常にあなたを大事に想い、海の路を通いあなたに会いたいと思っていましたが、こうなってしまった以上、もうあなたに会う事はできません」と言い残し、海坂(うなさか)を塞ぎ、海へと帰ってしまいました。 そして、トヨタマビメが海坂を塞いだ結果、人間は海の世界へ自由に行けなくなったという事です。 このトヨタマビメの出産と、随分前に書いたイザナミの蘇生は、共通した部分がありますよね。 イザナミの時は「蘇生する為に部屋を覗くな」とイザナキに約束させましたが、イザナキはこれを破ってしまった為、結果として、この世とあの世が分断され、トヨタマビメとホオリの場合も「出産を覗くな」と約束させたが、これを破った結果、地上界と海の世界が分断されています。 なぜこのような話が作られたか本に書いていなかったので真意は分かりませんが、神でありながら、あの世へ行けない理由と海の中では生きられない理由を当てつけたのだと思います。 あとは単純に「人の屍体と出産(当時は出産も穢である)は見るものではない」という事が言いたかったという理由があると思います。 鎌倉時代あたりには、他人のセックスを見ると運気が落ちるとか、精気が衰えるといったような考えがあったので、出産も古くからこのように受け取られていたのかもしれません。
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