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「私、捨てられたんですね。」
杏璃はぽつりと呟いた。
遥一に言ったのではなく、自分に言い聞かせるように。
「貴女には私の妻になってもらいます。妻といっても普段は今まで通りの生活で構いません。式は…そうですね。貴女が卒業したら。」
杏璃は遥一を睨みつけた。
「嫌よ。貴方に嫁ぐならホームレスにでもなったほうがマシよ。」
「無理ですね。貴女に拒否権はありません。俺が借金を返すかわりに貴女を貰い受ける…立派な売買です。貴女は既に俺のモノなんですよ。」
モノみたいに言わないでよ。
杏璃には、初めから選択肢は一つしかなかった。
それを唐突に理解した。
「何で妻…?」
「俺に言い寄ってくる女達にも、見合い話もうんざりなんです。」
「私は貴方を愛さないわ。」
「俺は貴女を愛しますよ。そして貴女に愛されてみせます。」
杏璃は小さく溜め息をついて、遥一から受け取った婚姻届にサインした。
この瞬間、杏璃は綾城杏璃になった。
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