第1章 In the Moonlit Night <fiction>

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「・・・佐倉祐司作曲 交響曲〝月の出る夜に〟」 アナウンスの後押しでステージに上がる。 オーケストラとの共演は数年ぶりだ。 ピアニストとして再びステージに立つとは思わなかった。 久々に感じるオケの迫力に、冷や汗が流れる。 『・・・お疲れ様でーす』 「お疲れ様~」 盛大なアンコールを二度ほど終えたホール裏。 そこには、意外にも安堵感が漂っていた。 みんな思い思いのことをしている。 俺も携帯を開く。 思ったとおり、彼女からメールが来ていた。 『お疲れ様☆ かっこよかったよ~実は今日来ていたんだよ、本匠クンと』 (本匠とはまた・・・) あいつが彼女とそれほどつながりがあったことに少し驚いた。 本匠は俺の親友で、俺達を引き合わせたのも、あいつだった。 『ちゃんと送ってもらえよ。』 あいつが一緒なら、心配ない。 『じゃぁ、バイトに向かうよ。』 そう今日最後のメールを送信して、俺はホールを後にした。 これがたった一つ、俺が毎日彼女にしている、うそ。
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