トマトジュースとヴァンパイア。

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―コンコン 静まり返った広い洋館にノックの音が響く。 返事は返ってこなかったが、「失礼」と一声かけ小十郎は扉を開けた。 室内に入ると冷たい夜風が一瞬頬をなでる。 ベランダへ続く窓は大きく開け放たれ、白いカーテンがパタパタとはためいている。 そのカーテンの向こうに探していた主の姿を見つけ、小十郎はゆっくり近づいた。 夜の静寂の中、月明かりに包みこまれるかのようにしてただずむ主は、さながら絵画か何かの様で、小十郎は声をかけるのを少しためらってしまう。 大理石のベランダにもたれかかるようにしてグラスを傾けていた青年はそんな小十郎の気配に気づいたのか、振り返ることもなく話しかけてくる。 「…小十郎か。」 相変わらず勘の鋭い方だ、と思うがそれもこの青年にはごく普通で当たり前のこと。 そう知っているから小十郎も驚かない。 「左様でございます。…政宗様、今宵は月が見事でございますな」 小十郎は政宗の隣に並び月を見上げた。 「だろ?あんまり見事だから今夜は月見酒だ…って言ってもトマトジュースなんだけどな」 ニヤ、と笑い政宗は赤い液体―トマトジュースの入ったグラスを持ち上げて見せる。 どうやら今宵の主は少々機嫌が良いようだ。まさかトマトジュースで酔ったわけでもないだろうが。
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