忘れられない人

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小森さんが寝たきりになる前にこんなことを話した。 『最近娘がよく孫を連れてお見舞いに来るんだよ。早く腰を治して一緒に釣りに行こうって言ってきてね。』 『いいじゃないですか可愛いお孫さんと釣りなんて~。早く腰治して退院せやんですね。』 『それがさ、全然腰の治る気配がないやんね…もしかしたら一生ここにお世話にならなきゃいけないような気がしてね~。』 『な、なに言ってるんですか!そんな事言うとお孫さん達が悲しみますよ。大丈夫、ちゃんと退院出来ますから…。』 苦笑いで話された言葉は、自分の状態が良くないことに気づいているのではないだろうか…とも思えた。 しかし、がんが進行している事を隠さないといけない俺は、『大丈夫ですよ』と励ます事しか出来なかった。 いったい何が大丈夫なのか?なんの根拠もないのに…このまま小森さんは何も知らないまま、退院して孫と釣りに行く事を夢にだけ見て…慰ってしまうのだろうか…そんなの嫌だ…
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