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からりとベランダの扉を開けると、夏
の夜にしては涼しい空気がぬるりと侵
入って来る。外に出てみれば暗闇がま
たはっきりと分かった。
「15498…これでこの夏が終わること
を祈るぜ」
「終わってくれたらそれに越したこと
はありませんね」
くすくすと笑い声が聞こえる。
「…相変わらず楽しそうだな」
「いえ、色々あったなと思いまして」
「水泳に盆踊りに花火…どれにしても
夏休みの思い出としてはキツいと思う
が」
特に風船配りのバイトはもう二度とや
りたくない。いや、実質的に覚えてる
のは一回だけなんだけど。
「確かに、あのアルバイトは避けたい
ものですが。僕は結構楽しかったです
よ」
「何がだ」
「こうやって、貴方に抱き着いたこと
とか…」
そう言いながら細い腕が俺に絡まる。
古泉の肢体がぴたりと俺にくっついた
。
「っ…」
「…こうやって、耳許で…告白したり
だとか」
「こら…」
「…好きですよ?」
ワントーン低くなる声色は紛れもなく
わざとで、その低音に頗る弱い俺は身
を固くするしかない。
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